旦那様。なんの御用でござります。外の用でもない。忰が 名をつけてくりやれ。ハイ。お(三十二ウ)生れなされたの か。よふおふとり被成て。そして男の御子でござりますか。 ヲヽサ。たつしやな名がよい。達者なお名なら、虎松様か 牛蔵様か。アイヤ、ずいぶん丈夫な目出たひ名がよい。左 様なら石蔵様。ムヽ、せき蔵とハなぜ。ハテ、石蔵毎年ま いとし。ムヽめでたい。はびろのおにわへどんどゝとびこ む、そふだハはねこむ、ごいわい申せバ目出たいそふだハ。 アヽコレ+、昔からある名で寿命の長い名がよい。左様 なら、アノ三浦の大助様ハどふでござります。三浦の大助 とハ。百六つさ。まつと長いハなひか。浦嶌太郎ハ八千歳。 まつと長いハなひか。東方朔ハ九千歳。まつとながひハ。 西の海へさらり(三十三オ) 妙薬△△△△△△△△△△△△ 鶴声楼作 コリヤア寸伯様。よふ御出被成ました。おやじか気色がわ るいと申ます。どふぞ御薬を。ドレ+脉を見ませふ。是 ハ痰じや。此くすりをのませて見さつせへ。あす参らふと いふて帰り、翌日来て、どふだな。アイ。同し事でござり ます。ドレ脉を見ませふ。これハきのふよりわるい。腫が 見へるといへバ、モシ、どこもそふハ見へませぬが。ハテ、 どふしてこなたしゆにしれよふ。かほの内、手足にむくみ のあるのが、しゆのあるのだ。此薬がよかろふとおいて行。 跡へ友達か来て、どふだ、おやじハ。ヲヽ徳右衛門。聞て くりやれ。アイ。医者どのが、きのふハ丹だといつたが、 けふハ朱だといつた。(三十三ウ)毎日赤くなる病だそふな。 ハテな。夫にハおれが妙薬をしつている。おらが子僧が疱 瘡の時、紅を顔へなすつた。おやじも朱から紅にならねへ 内、上からなするがいゝと、病人の皃へ紅をなすると、お やしか、コレ徳右衛門。どふする。ハテ、だまつていさつ せへ。跡から直してやる。コレ、はながでるが風だろふ。 はなをかんでやろふ。ふんといわつせへ。まつと+とい ふ内、のぼせて鼻血が出ると、おやじどの、病ひハ直る。 おれが請合だ。コレ、丹から朱になつて、はな血が出た。 赤い物ハ是ぎりだ 野狐△△△△△△△△△△△ 一陽亭△秀朔作 今ハむかし。田舎にて狐出て人を化すといふ事。武辺自慢 の侍、退治(三十四オ)せんと、かの所へ行てまちいたる。 十六七の器量のよき娘来り、私ハ向ふの村迄参る者でござ
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