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13巻 無事志有意

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傍記なし

旦那様。なんの御用でござります。外の用でもない。忰が
名をつけてくりやれ。ハイ。お(三十二ウ)生れなされたの
か。よふおふとり被成て。そして男の御子でござりますか。
ヲヽサ。たつしやな名がよい。達者なお名なら、虎松様か
牛蔵様か。アイヤ、ずいぶん丈夫な目出たひ名がよい。左
様なら石蔵様。ムヽ、せき蔵とハなぜ。ハテ、石蔵毎年ま
いとし。ムヽめでたい。はびろのおにわへどんどゝとびこ
む、そふだハはねこむ、ごいわい申せバ目出たいそふだハ。
アヽコレ+、昔からある名で寿命の長い名がよい。左様
なら、アノ三浦の大助様ハどふでござります。三浦の大助
とハ。百六つさ。まつと長いハなひか。浦嶌太郎ハ八千歳。
まつと長いハなひか。東方朔ハ九千歳。まつとながひハ。
西の海へさらり(三十三オ)

妙薬△△△△△△△△△△△△ 鶴声楼作
コリヤア寸伯様。よふ御出被成ました。おやじか気色がわ
るいと申ます。どふぞ御薬を。ドレ+脉を見ませふ。是
ハ痰じや。此くすりをのませて見さつせへ。あす参らふと
いふて帰り、翌日来て、どふだな。アイ。同し事でござり
ます。ドレ脉を見ませふ。これハきのふよりわるい。腫が
見へるといへバ、モシ、どこもそふハ見へませぬが。ハテ、
どふしてこなたしゆにしれよふ。かほの内、手足にむくみ
のあるのが、しゆのあるのだ。此薬がよかろふとおいて行。
跡へ友達か来て、どふだ、おやじハ。ヲヽ徳右衛門。聞て
くりやれ。アイ。医者どのが、きのふハ丹だといつたが、
けふハ朱だといつた。(三十三ウ)毎日赤くなる病だそふな。
ハテな。夫にハおれが妙薬をしつている。おらが子僧が疱
瘡の時、紅を顔へなすつた。おやじも朱から紅にならねへ
内、上からなするがいゝと、病人の皃へ紅をなすると、お
やしか、コレ徳右衛門。どふする。ハテ、だまつていさつ
せへ。跡から直してやる。コレ、はながでるが風だろふ。
はなをかんでやろふ。ふんといわつせへ。まつと+とい
ふ内、のぼせて鼻血が出ると、おやじどの、病ひハ直る。
おれが請合だ。コレ、丹から朱になつて、はな血が出た。
赤い物ハ是ぎりだ

野狐△△△△△△△△△△△ 一陽亭△秀朔作
今ハむかし。田舎にて狐出て人を化すといふ事。武辺自慢
の侍、退治(三十四オ)せんと、かの所へ行てまちいたる。
十六七の器量のよき娘来り、私ハ向ふの村迄参る者でござ
傍記あり

旦那様。なんの御用でござります。外の用でもない。/忰(せかれ)が
/名(な)をつけてくりやれ。ハイ。お(三十二ウ)生れなされたの
か。よふおふとり被成て。そして男の御子でござりますか。
ヲヽサ。たつしやな/名(な)がよい。/達者(たつしや)なお名なら、/虎松(とらまつ)様か
牛蔵様か。アイヤ、ずいぶん/丈夫(ぜうぶ)な目出たひ名がよい。左
様なら/石蔵(せきぞう)様。ムヽ、せき蔵とハなぜ。ハテ、/石蔵(せきそう)/毎年(まいねん)ま
いとし。ムヽめでたい。はびろのおにわへどんどゝとびこ
む、そふだハはねこむ、ごいわい申せバ目出たいそふだハ。
アヽコレ+、/昔(むかし)からある名で/寿命(じゆミやう)の/長(なが)い名がよい。左様
なら、アノ三/浦(うら)の大助様ハどふでござります。三浦の大助
とハ。百六つさ。まつと長いハなひか。/浦嶌(うらしま)太郎ハ八千/歳(ざい)。
まつと長いハなひか。/東方朔(とうほうさく)ハ九千歳。まつとながひハ。
/西(にし)の/海(うミ)へさらり(三十三オ)

妙薬△△△△△△△△△△△△ 鶴声楼作
コリヤア/寸伯(すんぱく)様。よふ御出被成ました。おやじか/気色(きしよく)がわ
るいと申ます。どふぞ/御薬(おくすり)を。ドレ+/脉(ミやく)を見ませふ。是
ハ/痰(たん)じや。此くすりをのませて見さつせへ。あす参らふと
いふて/帰(かへ)り、/翌日(よくしつ)来て、どふだな。アイ。/同(おな)し事でござり
ます。ドレ/脉(ミやく)を見ませふ。これハきのふよりわるい。/腫(しゆ)が
見へるといへバ、モシ、どこもそふハ見へませぬが。ハテ、
どふしてこなたしゆにしれよふ。かほの内、手足にむくみ
のあるのが、しゆのあるのだ。此薬がよかろふとおいて行。
跡へ/友達(ともたち)か来て、どふだ、おやじハ。ヲヽ/徳(とく)右衛門。聞て
くりやれ。アイ。/医者(いしや)どのが、きのふハ/丹(たん)だといつたが、
けふハ/朱(しゆ)だといつた。(三十三ウ)毎日/赤(あか)くなる/病(やまい)だそふな。
ハテな。夫にハおれが/妙薬(ミやうやく)をしつている。おらが/子僧(こぞう)が/疱=
瘡(ほう=そう)の時、紅を/顔(かほ)へなすつた。おやじも/朱(しゆ)から紅にならねへ
内、上からなするがいゝと、/病人(ひやうにん)の/皃(かほ)へ紅をなすると、お
やしか、コレ/徳(とく)右衛門。どふする。ハテ、だまつていさつ
せへ。跡から直してやる。コレ、はながでるが風だろふ。
はなをかんでやろふ。ふんといわつせへ。まつと+とい
ふ内、のぼせて/鼻血(はなぢ)が出ると、おやじどの、/病(やま)ひハ直る。
おれが/請合(うけあい)だ。コレ、丹から/朱(しゆ)になつて、はな/血(ち)が出た。
赤い物ハ/是(これ)ぎりだ

野狐△△△△△△△△△△△ 一陽亭△秀朔作
今ハむかし。/田舎(いなか)にて/狐(きつね)出て人を/化(ばか)すといふ事。/武辺(ぶへん)/自慢(ぢまん)
の/侍(さむらい)、/退治(たいぢ)(三十四オ)せんと、かの所へ行てまちいたる。
十六七の/器量(きりやう)のよき娘来り、私ハ/向(むか)ふの村迄参る者でござ