いつ御ろうじたと(四オ)いへば、昨日裏で、足本つる+ と来たを、いたちかとおもふてころそとしたれば、となり の松兵衛が垣越に、やれ殺しやんな。ひがんじやと云れた。 はつ恋 春の野出て遊びけるが、つく+し、嫁菜のそばゑ立より て、わしハお前(四ウ)がいとしいと云ふ。よめな、そんな らこちゑよらんせと抱つけば、もう袴取ふかといふ処へ、 せうゆ売通りかゝり、荷ひしせうゆのいへるハ、なんぼ二 たりがどれよふても、わしがはいらざ、水くさかろと云た。 白梅 仁平と云人、坪のうちに梅の花育て、(五オ)友達をまねき けるが、其中に投さいのすきなるもの、発句に、 △△▽坪のうち仁平のうらぞ梅の花 見たて 深山の大木に猿あがり居る。下よりハ蛇はひ上る。かの さる、蛇をのミけり。此くちなわ驚き、猿のいところゑ (五ウ)つらを出す。猿、是を見て、南無さん、おれをぬゑ にしをつた。 能ひ覚 去るつき米屋、夫婦ながら無筆にて、得意より米とりに来 る。丸屋へ弐斗、備前屋ゑも三斗やる。よう覚ていやと、 内儀に覚させて置れける。有る時、松屋から二斗五升の代 が来たほどに、覚て(六オ)いやるなら、わすりやと云れた。 一ツ宗 さるかたい日蓮宗の所ゑ、奴奉公人肝煎ける。此方の宗旨 にならバ長く置てやろうと申さるゝ。きも入もいろ+と すゝむれども、田舎者にて合点せず。肝煎、いつわりてお ゐて戻らんと、やう+合点致しましたと(六ウ)いゑば、 旦那よろこびて、一部八巻の御経をいたゞかさんと、仏壇 を明ケけるに、彼でつち、腹を立てにげんとするを、肝煎 ぬからん顔にて、もはやいたゞかひでも御宗旨になりまし た。なぜにといへば、はて、あのかたいぢを御ろうじませ。
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