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8巻 軽口福おかし

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傍記なし

いつ御ろうじたと(四オ)いへば、昨日裏で、足本つる+
と来たを、いたちかとおもふてころそとしたれば、となり
の松兵衛が垣越に、やれ殺しやんな。ひがんじやと云れた。

はつ恋
春の野出て遊びけるが、つく+し、嫁菜のそばゑ立より
て、わしハお前(四ウ)がいとしいと云ふ。よめな、そんな
らこちゑよらんせと抱つけば、もう袴取ふかといふ処へ、
せうゆ売通りかゝり、荷ひしせうゆのいへるハ、なんぼ二
たりがどれよふても、わしがはいらざ、水くさかろと云た。

白梅
仁平と云人、坪のうちに梅の花育て、(五オ)友達をまねき
けるが、其中に投さいのすきなるもの、発句に、
△△▽坪のうち仁平のうらぞ梅の花

見たて
深山の大木に猿あがり居る。下よりハ蛇はひ上る。かの
さる、蛇をのミけり。此くちなわ驚き、猿のいところゑ
(五ウ)つらを出す。猿、是を見て、南無さん、おれをぬゑ
にしをつた。

能ひ覚
去るつき米屋、夫婦ながら無筆にて、得意より米とりに来
る。丸屋へ弐斗、備前屋ゑも三斗やる。よう覚ていやと、
内儀に覚させて置れける。有る時、松屋から二斗五升の代
が来たほどに、覚て(六オ)いやるなら、わすりやと云れた。

一ツ宗
さるかたい日蓮宗の所ゑ、奴奉公人肝煎ける。此方の宗旨
にならバ長く置てやろうと申さるゝ。きも入もいろ+と
すゝむれども、田舎者にて合点せず。肝煎、いつわりてお
ゐて戻らんと、やう+合点致しましたと(六ウ)いゑば、
旦那よろこびて、一部八巻の御経をいたゞかさんと、仏壇
を明ケけるに、彼でつち、腹を立てにげんとするを、肝煎
ぬからん顔にて、もはやいたゞかひでも御宗旨になりまし
た。なぜにといへば、はて、あのかたいぢを御ろうじませ。
傍記あり

いつ御ろうじたと(四オ)いへば、/昨日(きのふ)/裏(うら)で、/足本(あしもとへ)つる+
と/来(き)たを、いたちかとおもふてころそとしたれば、となり
の/松兵衛(まつべい)が/垣越(かきごし)に、やれ/殺(ころ)しやんな。ひがんじやと云れた。

はつ/恋(こひ)
/春(はる)の/野(の)/出(いて)て/遊(あそ)びけるが、つく+し、/嫁菜(よめな)のそばゑ/立(たち)より
て、わしハお/前(まへ)(四ウ)がいとしいと云ふ。よめな、そんな
らこちゑよらんせと/抱(だき)つけば、もう/袴(はかま)取ふかといふ/処(ところ)へ、
せうゆ/売(うり)/通(とおり)りかゝり、/荷(にな)ひしせうゆのいへるハ、なんぼ/二(ふ)
たりがどれよふても、わしがはいらざ、水くさかろと云た。

/白梅(はくはい)
/仁平(にへい)と云人、/坪(つほ)のうちに/梅(むめ)の花/育(そたて)て、(五オ)/友達(ともたち)をまねき
けるが、/其中(そのなか)に/投(なげ)さいのすきなるもの、/発句(ほつく)に、
△△▽/坪(つほ)のうち/仁平(にへい)のうらぞ梅の/花(はな)

/見(ミ)たて
/深山(しんざん)の/大木(たいほく)に/猿(さる)あがり居る。/下(した)よりハ/蛇(くちなわ)はひ/上(のほ)る。かの
さる、/蛇(くちなわ)をのミけり。此くちなわ/驚(おとろ)き、/猿(さる)のいところゑ
(五ウ)つらを/出(た)す。/猿(さる)、/是(これ)を/見(み)て、/南無(なむ)さん、おれをぬゑ
にしをつた。

/能(よ)ひ/覚(おほへ)
/去(さ)るつき/米(こめ)屋、/夫婦(ふうふ)ながら/無筆(むひつ)にて、/得意(とくい)より/米(こめ)とりに/来(く)
る。/丸(まる)屋へ弐/斗(と)、/備前(ひせん)屋ゑも三/斗(と)やる。よう/覚(おほゑ)ていやと、
/内儀(ないき)に/覚(おほへ)させて/置(をか)れける。/有(あ)る/時(とき)、/松屋(まつや)から二/斗(と)五/升(せう)の/代(たい)
が/来(き)たほどに、/覚(おほへ)て(六オ)いやるなら、わすりやと云れた。

一ツ/宗(しう)
さるかたい/日蓮宗(にちれんしう)の/所(ところ)ゑ、/奴奉公人(てつちほうこうにん)/肝煎(きもいり)ける。/此方(このほう)の/宗旨(しうし)
にならバ/長(なが)く置てやろうと申さるゝ。きも/入(いり)もいろ+と
すゝむれども、田舎者にて/合点(かてん)せず。/肝煎(きもいり)、いつわりてお
ゐて/戻(もと)らんと、やう+/合点(かてん)/致(いた)しましたと(六ウ)いゑば、
/旦那(たんな)よろこびて、一/部(ふ)八/巻(くわん)の/御経(おきやう)をいたゞかさんと、/仏壇(ふつたん)
を/明(あ)ケけるに、/彼(かの)でつち、/腹(はら)を/立(たて)てにげんとするを、肝煎
ぬからん/顔(かほ)にて、もはやいたゞかひでも御/宗旨(しうし)になりまし
た。なぜにといへば、はて、あのかたいぢを御ろうじませ。