とらへ、銭弐百文にぎらせ、さきほどより御太儀や。ほね おりや。ちか比すこしながらと、とらせければ、偸人きも を潰し、是ハめいわく。此やうに御いんぎんに被成ますれ ば、かさねて参りにくいと時宜をしければ、ていしゆ、さ ても其方ハ盗人の中でも、りちぎ者じや。(四ウ) 父なし子 下女なれどかたち人なミに、折+御客もあれバしやくに 出て、おもひ入たる人の付ざしをのみけるに、ほどなく懐 胎し、きのどくながら月をかさね、今朝やす+と産おと し、見ればあたまなく、手ばかりの子なり。人※ふしぎ に思ひ、かの下女にたづねければ、別におぼへもなし。彼 付さしのとき、肴に蛸をたべましたといへば、そばなる人 申されしハ、さやうの事も有べし。上ノ町の又兵衛の内義 ハ大酒呑じやが、さかづきなしに引かたふけ(五オ)呑れた れば、徳利子を生れたといハれた。 子が才覚 ある人、五つばかりに見ゆる子に銭壱文渡し、酢買てこい といふ。むすこ、がてんして行けるが、酢はかハずして、 餬を買て帰りける。母おや見て、是ハ醋でハない。しやう ねなしめとしかりけれハ、子息せかぬ皃で、のりハこぼれ いでよいさかいで、買て来ましたといふた。 欲からしづむ淵 さる所に、子弐人もちたる有けり。壱人ハまゝ子成(五ウ) ければ、にくさの余り、寺へ行て長老様を頼ミ、子共の名 を付かへてもらふ。兄ハずいぶんミじかき名、弟ハひさう 子で御座ります。成ほど長き名をと、このミければ、長老 様、がてんじやとて、兄をによぜがも、弟をバあのくたら 三びやく三ぼだいと付給ふ。ある時によぜがも、川へ行て ながれければ、近所の者出て、やれ、によぜがながるゝハ と、やがて引あげ、あやうき命たすかりける。其後又、弟 水遊してながれければ、母おや、かなしや。あたりに人ハ (六ノ九オ)ないか。あのくたら三びやく三ぼだいが流れま すといふ間に、行衛なかりける。母おや、ぬからぬかほで、 三百をすてたら、たすかろ物をとなかれた。
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